B−9)ライブロックのお話

 

 ライブロックは水槽内に様々な恩恵をもたらします。ただ、近年はこのライブロックの乱獲が問題になっています。海洋生物の生命維持装置とも言えるライブロック。確かに水槽にも有益なのですが、多すぎる採取が自然を破壊しているのも事実です。ライブロックは多数の生命体が生きている石です。環境が良くないと付着している微生物がどんどん死んでいき、死の石に変わっていきます。死の石になったデッドロックを、新しいライブロックに交換する、いわゆる「ライブロックの使い捨て」をしているアクアリストもいます。ライブロックは上手く管理していくと一生物になります。自然が何百年、何万年もかけて作り出した生物の根源ライブロック。是非貴重な扱いをしたいものです。

 下記では、このライブロックの浄水能力、導入時やデッドロックになってしまった場合の洗浄方法、良質な能力の維持方法、ライブロックの選び方などについて説明しています。

 

<ライブロックの浄水能力>

  マリンアクアリストにとって、このライブロックと安全水槽は切っても切り離せない関係だと思います。ライブロックとは、文字の通り「多数の生物が生きている岩」です。長い年月をかけ、海中のカルシウムとサンゴによって形成されます。ライブロックは大きくなったサンゴの骨格、要は「サンゴの骨!」です。

 しかしこの「サンゴの骨」は、単なる屍ではありません。水槽に入れる一塊の「良質な」ライブロックには、バクテリアを初めとする生物濾過に有効な何億もの生物が存在しています。良質なライブロックには沢山の微生物や海草が付着していますので、エビなどの良きエサ場となり、数多く寄るようになります。この微生物たちが、投入された水槽の水質に著しく関与します。モナコ式などの100%自然濾過水槽では、このライブロックと底砂、スキマー、水流だけで濾過をしています。

 ライブロックの生物濾過能力は、その岩に当たる水流と深く関係しています。ライブロックには目に見えない無数の小さな穴が空いており、ここに無数のバクテリアが生息しています。

 良質なライブロックには、バクテリアの他にも「貝」「藻エビ」「ケヤリ」「海草」などの生物がついていることが多いです。この様に水質に対して有益な生物が多いライブロックですが、デメリットもあります。それは海水魚や無脊椎にとって有害な生物も付着していることがあると言うことです。

  

写真はカニ君です(笑)ライブロックにぶら下がり、底砂に落ちたエサの残りを物色しておられます。 

 その代表格は「カニ」や「シャコエビ」などです。カニはサンゴなどを食べてしまいますし、大きくなると魚も補食するようになります。シャコに至っては近づく者に「シャコパンチ」なる猛烈な攻撃をしかけます。クマノミなどの小さな海水魚は、このシャコパンチを食らうと即死してしまいます。

 そして最も怖いのが、水槽内のペストと呼ばれる、強力な毒と強い生命力、繁殖力をもった「セイタカイソギンチャク」の混入です。

 

<セイタカイソギンチャクの情報>

 ■強力な毒を放出する
 ■驚異的な繁殖力をもつ ※ちぎれた破片から再生します
 ■無脊椎生物への多大な影響
   ※他のイソギンチャクやサンゴに付着すると、かなり高い確率で死亡させます。

 これは某ペットショップのサンゴ水槽に大量にいたセイタカイソギンチャクです。「ライブロック・イソギンチャク付き!」とか書いてあって販売してました・・・実話です。余計なお世話だったかも知れませんが、店長さんを呼びお話をさせて頂きました。

  こやつを絶対に水槽へ入れないで下さい。無脊椎がいる水槽ではかなり高い確率で壊滅します。とは言っても、破片からも再生しますので、ライブロック内に破片が混入していると防ぎようがありません。予防法としては、購入時にライブロックが入ってる水槽、または貯蔵水槽の全体を見回し、このセイタカイソギンチャクがいないかをじっくり観察して下さい。

 

 万が一混入してしまったら・・・魚には影響がないと思いますので、無脊椎水槽以外では放っておきましょう。むやみに退治すると、大量発生の元となります。

 無脊椎がいる水槽に混入してしまったら・・・見つけ次第、付着しているライブロックを水槽から出し、対処してください。熱湯で煮沸するのも有効ですが、中火でことこと1時間ほど煮た方が無難です。熱湯をかけるなどの処置をしても表面上だけの処理になり無駄な場合が多く、微生物も死滅し、水槽に戻したときに大問題を引き起こします。

 熱湯で湯がくのは敢えて問題があるライブロックを、生体の住まない「デスロック」にするためです。デスロックは何度もお湯を換えて煮沸し、1週間ほど天日干しをしてから真水で洗い、水槽へ戻します。

 ただ、セイタカイソギンチャクが付着したライブロックを処理しても、水槽内のセイタカが解消されない場合は・・・残念ながら全ての水、ライブロック、濾材を一度処理して交換するしか手はないかもです。。。 ちぎって退治しても、残った根本や、ちぎれて拡散した破片から大量に再生してしまいます。一部のエビ(ホワイトソックスやスカンクシュリンプ、特に「ペパーミントシュリンプ」は、このセイタカイソギンチャクを食べてくれたと報告があります。ですが、他のサンゴやイソギンチャクも当然食べてしまうわけで・・・セイタカイソギンチャクが水槽内の「ペスト」と呼ばれる由縁はここにあります。

 混入させないためには、購入時における細心の注意が必要です。また、キュアリングも念入りにし、怪しい生物を見つけてしまったら、その生物の性質が分かるまで導入しないのが懸命です。滅多にお目にかかることは無いと思いますが、水槽が全滅した事例をいくつか目にしましたので、こちらに記載しました。

 

 

  だたこのライブロックは、上記で説明してきた通り、デメリットを凌駕する恩恵を水槽にもたらします。このデメリット(有害生物や汚れ、微生物の死骸など」を解消するには、「キュアリング」というライブロック洗浄を行います。

<キュアリング方法>

@

ライブロックを入れる小型水槽や大きめのバケツを用意します。

※今回は内部が見易いように水槽ですが、バケツでもOKです。

A

飼育水槽の海水を入れ、ヒーターを導入し、飼育水槽と同じ水温に保ちます。(新たな海水を作成する場合は、必ずカルキ抜きをして下さい)

B

広範囲に広がるタイプのエアレーションを設置します。

C

目に見える有害生物やゴミを、ピンセットなどで取り除きます。

飼えそうな生体は濾過槽などで飼ってあげてくださいね。

D

ライブロック表面に付着している汚れを、飼育水槽の海水で洗い流します。

E

エアレーションの上に、掃除したライブロックを積み上げます。

F

キュア水槽内に水中ポンプなど、水流を発生させる強めのポンプを設置し、海水が回転する位置に置き、1日稼働させます。(稼働直後からキュア水槽の海水が白く濁ってきます)

G

 

Fの状態で数時間稼働させると、キュア水槽の海水は透明に浄化されていきます。1日毎に一度ライブロックを取り出し、汚れたキュア水槽の洗浄後、新たに海水を入れ上記Fを1週間ほど繰り返します。

 キュアレーションを行うことにより、スキマーのような役割をするエアレーションの気泡によって、ライブロック表面や内部に溜まった微生物の死骸や汚れがかなり取り除かれます。また、直接のエアレーションにより、ライブロック内部のバクテリアも活性化します。

 この時に「ペットボトルカニ捕獲器」を底の方に設置すると、カニやシャコがいればある程度捕獲できます。この捕獲ですが、作者から一つだけお願いがあります。彼らもライブロックに着いてきた、水槽の仲間です。捕獲したカニやシャコ君は、出来るだけ飼育してあげてくださいね。我が家では濾過槽に彼らが生活するスペースをつくり、そちらで飼育しています。

 

 キュアし終わったライブロックを飼育水槽内に導入する場合は、底に沈める前に水槽内で軽く振り、内部の空気を抜きます。キュアせずにこれをやると、水槽内へライブロックに付着している様々なゴミや有害生物が水槽内に広がってしまいます。恐ろしや・・・

 一日キュアリングをしたキュア水槽は、ライブロックに付着していた様々な虫や有害な生物の死骸などでいっぱいです。ですので1日毎に海水を全交換します。一度キュアリングを体験し、これを見てしまうと、キュアしないで水槽に導入できなくなります(汗)

 

<ライブロックの浄化能力維持方法>

 ライブロック、生命の源は何と言っても「バクテリア」と「微生物」です。このバクテリアと微生物が多く繁殖する水槽内では、ライブロックの表面に「石灰藻」という赤茶で膜ようなコケが着いてくる事があります。

 しかし、「石灰藻が繁殖しているライブロック=良いライブロック」というのは間違いです。何故なら、立ち上げ初期の水槽に投入したライブロックの石灰藻は、魚を導入し水質が一時的に悪化すると、すぐに剥がれ落ちることが多いからです。水質が安定し、魚が快適に住める環境になった水槽内、浄化作用が強まったライブロックには、再び石灰藻が繁殖してきます。

水槽立ち上げから1週間のライブロック

安定後、石灰藻が復活したライブロック

 

ライブロックはスポンジ状の石灰質ですので、内部に行くほど海水の通りが少なくなります。この性質から、内部が嫌気層、外部が好気層となり、繁殖するバクテリアの種類が異なってきます。

  好気層には好気性バクテリア(ニトロモナス、ニトロバクターなど)が繁殖し、内部には嫌気性バクテリアが繁殖するのですが、大きな嫌気濾過は行われません。これは嫌気性バクテリアの餌となる「炭素源」に限りがあり、嫌気性バクテリアが炭素源を使い尽くしても自然には補充されないためで、ライブロックや大き目のサンゴ石が嫌気濾過をすると言う事にはなりません。

 また、「石灰藻の繁殖には強い光が必要」という情報もありますが、これは正しくないかも知れません。我が家の水槽では、部屋の灯りしか届かない濾過槽内のライブロックに、この石灰藻がびっしりと繁殖しました。確かに真っ暗な場所(岩の裏側など)には、石灰藻は繁殖しませんが、強い光はあまり必要がないようです。

 ライブロックには「裏」と「表」があります。できれば自然下に置かれていた状態と同じく、石灰藻の多く付着した面を上にし、水槽の照明が当たるようにレイアウトします。ライブロックにはある程度の水流を当てた方が、バクテリアの活動もより活発になります。

写真(ライブロックトンネル)

 水槽内に設置するときは、上記写真のように水流の通る空洞をつくると、水の循環が良くなります。

 

 状態の良いライブロックは、導入時には見られなかった様々な生物が顔を出すようになります。

写真(ライブロックに顔を出したシロマメスナギンチャク)

Mixiコミュ「アクアリウム・海水魚の病気」のメンバーの方から頂きました。写真提供有り難う御座います! )

写真(ライブロックに顔を出したスターポリプ)
 

 我が家では「藻エビ」「無数のケヤリ」「アワビ」「様々な海草」「スターポリプ」などが顔を出しています。(カニ君も出てきましたが・・・)貴方の水槽に導入されたライブロックからは、一体何が出てくるのでしょう?これも楽しみの一つですね。

 

<状態の良いライブロックの選び方>

 ライブロックを選ぶときは、見た目もありますが匂いを嗅いでみて下さい。美味しそうな海苔の匂いがするものは良質なのですが、海水が腐ったような匂いがする物は内部の生物が死滅し、毒素と化している可能性がありますので、できるだけ避けて下さい。たまに真っ白でつるつるなライブロックが販売されている時があります。状態が悪いとは一概に言えないのですが、こういうライブロックはライブロック貯蔵水槽の底で、長い間放置されていた可能性がありますので、出来るだけ避けた方が無難です。

 比べてみると一目瞭然ですね。

 

 最も安全なのが海水魚の販売水槽内に、お魚と一緒にディスプレイされているライブロックです。お店の人もキュアリングが終わった、上質で安全なライブロックを飼育水槽へ導入しますので安心して購入できますし、ライトの照射や水流循環など、実際に導入する水槽と類似する環境下にありますので無難です。

 そしてなるべく多くの細かな穴が空いた物を選択して下さい。目に見える細かな穴から目に見えない穴へ海水が供給され、バクテリアが活発に活動します。


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作者は国語赤点野郎です。文章に不備が合った場合や、分かりにくい事、質問などが御座いましたらどしどしメールをして下さい。ホームページにも反映させていきたいと思っています。

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